Project #1土木系

白川沿川の洪水被害を
未然に防ぐ、
洪水調節専用の
「立野ダム」建設。

工事名:立野ダム建設(一期)工事

PROJECT OUTLINE

白川は熊本県の中央部に位置する河川で、その源を熊本県阿蘇郡高森町根子岳に発します。阿蘇カルデラの南の谷(南郷谷)を流下し、同じく阿蘇カルデラの北の谷(阿蘇谷)を流れる黒川と立野で合流した後、熊本平野を貫流して有明海に注ぐ一級河川です。
その水源は環境省により名水百選にも指定され、流域に住む人々に多くの恵みをもたらしてきました。一方で、全国平均に比べて降水量が多く洪水が発生しやすい地域的特性を持っており、特に下流の熊本市内では周辺より高い位置を流れているため、一度氾濫するとその影響が広範囲に及ぶ特徴があります。実際、1953年6月、80年8月、90年7月、2012年7月には洪水による甚大な被害が発生し、その対策が急務とされてきました。そこで2018年8月より、立野ダム本体の建設工事が本格的に開始されたのです。
立野ダムは白川と黒川の合流地点から1kmほど下流で建設が進む、洪水調節専用ダム(流水型ダム)です。流水型ダムとは一般的な貯水型ダムとは異なり、平常時は水を貯めず通常の河川のような流水を行い、洪水時にダムへの流入量が増えた場合に貯水して下流への流水量を調節するダムのこと。ダムの規模及び構造形式は堤高約90m、堤頂長約200m、堤体積約40万m³の曲線重力式コンクリートダムです。
西松建設では立野ダム建設(一期)工事を3社によるジョイント・ベンチャー(=JV:西松建設・安藤ハザマ・青木あすなろ建設による特定建設工事共同企業体)で受注し、2018年2月より工事に着手しています。現在のJV社員数(3社合計社員数)は30名で、そのうち西松建設の社員数は20名を占めています。また、実際に施工をする協力会社数は40社以上で、作業員数は200~250名の昼夜勤務体制。完成は2023年を目指しています。

PROFILE

土木職

九州支社
立野ダムJV工事事務所 所長

中井 利幸

Toshiyuki Nakai

入社33年目。入社以来、施工管理、主任技術者として全国で6件のダム建設に従事。立野ダムでは現場を統括管理する責任者「現場代理人」。

土木職

九州支社
立野ダムJV工事事務所 副課長

白武 知浩

Tomohiro Shiratake

入社15年目。前プロジェクトにおけるダム建設現場の経験を買われ、2019年に応援要員として立野ダム建設工事に参加。その後、本社異動となったが、立野ダム工事が最盛期を迎えたことから、本格的にプロジェクトに合流。

電気職

九州支社
立野ダムJV工事事務所 係長

角屋 祐次

Yuji Kadoya

入社19年目。西松建設の中でも約60名しかいない機電職。工事現場における機械・電気設備の担当者として、施工管理、施工設備計画、給排水計画管理、濁水管理等を担う。

土木職

九州支社
立野ダムJV工事事務所

新田 奈穂

Naho Nitta

入社3年目。新入社員として研修終了後、初の配属先が立野ダム。学生時代はコンクリート研究室で学び、土木事業に携わることを希望して西松建設に入社。

※インタビュー時の所属です。

TALK - 01このプロジェクトの社会的な
意義とは?

中 井(所長)

台風や集中豪雨による河川氾濫の災害を減らす方法は治水しかありません。治水には堤防、調整池、ダムといった様々な方法がありますが、その中でもダムは有効な手段のひとつで、計画している洪水量であれば一時的に貯水し下流へ流す水量を調節することが可能です。仮に下流域の浸水が想定される場合でも河川の氾濫が発生するまでの時間を長くすることができ、流域住民が退避する時間を確保して被害を軽減できます。ひと頃、ダムは自然環境へ与える影響が大きいと問題視されていましたが、現在はダム周辺や流域の生態系や景観に配慮した設計がなされるようになり、環境との両立が図られています。近年はインフラツーリズムでダムが観光資源となって、地域活性化の起爆剤にもなっています。

白 武

そもそも土木工事には人々の生活を支えるという意義がありますが、中でもダム建設は洪水から人命を守るという大きな使命を担っています。特に近年はゲリラ豪雨や線状降水帯の多発などにより、その意義はますます高まっていると感じます。日本全国どこで洪水が起こってもおかしくないと言っても過言ではない状況であり、このダム建設という仕事は、人ごとではなく自分も含めた日本で暮らすすべての人にとって、身近なものだと考えています。

新 田

中でも九州は近年、大雨による被害が本当に多いです。私はちょうど阿蘇山から熊本平野へと流れる白川の川下を見渡せる地域に住んでいます。白川がもし氾濫したら今見えている町に被害が及ぶのだと思うと、このダム建設の重要性にとても身が引き締まる思いです。

角 屋

また立野ダムの建設地である南阿蘇村は、2016年の熊本地震により甚大な被害を受けました。その復興イベントとして行われている「まち歩き(フットパス)」に西松建設の若手を誘って参加し、ルート途中にある立野ダム建設地の前で、ダム建設の必要性や進捗状況などを県外から参加される方に紹介しました。私も同じ地域住人の一人として、地域のイベントや行事にも誘ってもらっていますし、立野ダムの役割を少しでも理解して頂けると嬉しくなります。

TALK - 02プロジェクトで携わっている
役割とは?

中 井(所長)

ダム建設ではダム本体を載せる堅固な岩盤を出現させるため、建設位置の表土や弱い岩盤を掘削します。ところが、所定の強度を有する岩盤が出現しないこともあり、そうすると掘削する範囲や深さが変更になるなど、工程にも影響します。そんな際でも施工方法や施工体制を工夫し、工期に遅れることなく高い品質を維持することは施工者の務めであると思っています。これはほんの一例にすぎませんが、こうした幾多の難局を乗り越えるためには、現場の関係者全員で最善策を見い出し実行する必要があります。そのとりまとめがダム建設の現場責任者としての私の重要な役割になります。

角 屋

私は機電職として、施工設備(仮設備)の計画、給排水の計画・管理、工事で排出される濁水処理設備の運転管理を行っています。立野ダムは峡谷に建設されるためダム上下流の河川敷の土地がほとんどなく、全ての設備が両岸の天端以上(ダムの最上部以上)にあるのが大きな特徴です。給排水を行う場合も高低差が約80mあり、配管ルートや設置するポンプの選定、設置方法については入念な計画が必要になります。白川は流量も勢いも強い暴れ川で、取水場の選定や維持も大変困難ですが、常時、給水設備や排水設備を停止させることなく稼働させることが私の使命です。

白 武

ダム建設には堤体(ダム本体)の工事と、ダムから河川に流す水の勢いを抑制するための減勢工という工事があり、私はその減勢工の指揮・統括を任されています。私は今回でダム建設は2現場目ですが、前回のプロジェクトと比較すると立野ダムは堤体に埋設される鉄筋構造物や計器が多く複雑で、周辺の工事用道路などの仮設構造物の工事も同時並行で進めています。したがって、複雑な堤体工事はもちろん、周辺の道路工事の状況も把握した上で、減勢工を進めていく必要がある。そのため、他現場の状況把握や打ち合わせの機会が多くあります。工事に関わっている作業員数も多いですから、なるべく密なコミュニケーションを取るように心掛けていますね。それは責任者として大変な部分ですが、やりがいや楽しさもその分大きいと思っています。

新 田

私はダムの基礎となる箇所でショベルカーによる掘削や法面工事の現場管理を担当しました。現場担当として安全・でき形・品質・写真管理・測量作業などが主な業務です。現場では、思わぬ障害物があったり、地形の特徴に悩んだり、計画通りにいかないことが多々あります。そこをまず自分の目で確認し、作業の際に考慮すべき事項のチェックや安全に効率よく作業できるよう対策を練って、協力会社の職長さんに指示することが私の役割です。わからないことは先輩に質問しながら進めています。

TALK - 03プロジェクトを通して
得られた経験・成長とは?

新 田

若手の現場担当である私の一番の仕事は、最前線で現場の動きを把握することです。現場で起こっていることを逐次上に報告するとともに、何かあれば自分でも対応に当たります。1年目の時はわからないことだらけで先輩に質問してばかりでしたが、2年目の今はある程度の危険予知や安全管理、作業手順についても経験でき、自分の意見も持てるようになってきました。小さな作業でも、自分の裁量で現場を動かし、ものができ上がることには、達成感ややりがいを感じています。

角 屋

現場では計画から現場管理、官公庁提出書類の作成対応まで私がオールマイティに担当します。立野ダムは河床から約80mの高さにコンクリート製造設備があり、コンクリートを打設するには、その運搬手段が重要となります。そこで約350m離れている右岸と左岸に鉄塔を組んでケーブルで繋ぎ、ダムコンクリートを運搬機で運べる設備を設置しました。狭いヤード内での組み立ては搬入方法の立案や作業調整がとても難しかったですが、ここまで規模の大きなケーブルクレーンを設置したのは初めてだったので、新しい経験ができ自信になりました。

白 武

土木構造物は“一品もの”です。ダム工事は一見シンプルですが、たとえばコンクリートひとつ取っても既製のものを買ってくればいいわけではなく、その土地の地形や川の流量などに合わせて、最適なものを一からつくる必要がある。特に立野ダムは複雑な条件が重なっていたので、これまでの経験ではカバーしきれない部分もありました。そこで自分の部下に限らず、多方面に視野を広げながら情報収集することを心掛けています。そうして集まった情報をまとめて自分なりに考えながら、最適な方法を模索していく。こうしたコミュニケーションや体制づくりは、これまでの現場以上に求められると思いますし、いい経験になっています。

中 井(所長)

私は立野ダムが6現場目のダム工事になります。建設に携わっている最中は現場を進めていくことに懸命で、大変なことの方が多いかもしれません。でも、一つの現場を終えて振り返ってみた時、自分がどれだけ成長できたかに価値を見出せると思います。ただ単に楽で易しい現場はまずありませんが、悩み、苦労した現場ほど達成感も大きいです。ダム現場は工事期間が長いため途中で異動になることもあります。ダムの完成がニュースで報じられたり、旅行などで完成後に訪れたりした時に改めて、「良い物を造った」という誇りが持てます。このようなことの繰り返しにより一段上の技術者として成長できたという実感が湧いてきます。

TALK - 04プロジェクトで求められた
「現場力」とは?

角 屋

立野ダムは管理用エレベーターのための立坑があり、「ダムで立坑?」と驚きました。ただ、シールド工事での縦配管の経験があったため、約70mの深さがある立坑に給排水設備を取り付けることができました。建設業における機電職には、あらゆる現場に対応するための十分な知識や技術が欠かせません。ですから、機械のトラブルや不具合の改善も含めた今までの経験が、知識や技術の習得をする上でとても重要になってきます。こうした現場対応力が私に一番求められている力だと思いますし、やりがいにつながっています。

白 武

私が担当している減勢工は、堤体ほど大規模なものではないですが、逆に細かい構造物の組み合わせが多々あり、とても緻密な計画が求められます。完成したダムだけ見ると巨大なものなので、工事も比較的ゆったり進むと思われがちですが、実は工事の工程はけっこう複雑で、天候や工事の進捗によってスケジュールもめまぐるしく変わります。ですから事前の緻密な計画づくりと、現場での柔軟な対応力が求められますね。このあたりはやはり、経験がないとわからない部分。現在、ダムの新設工事は減っているので、若い社員が経験できる機会も多くはありません。ですから私のような経験者が、これから入ってくる若い人たちにそういうノウハウを伝承していけたらなと思っています。

中 井(所長)

私たちの仕事は基本的に失敗が許されません。現場の社員及び関係部署の社員で最適な方法を考え、100%の確信を得てから工事を進めて行きます。それでも現場では様々な問題が発生します。その時に現場社員の一人ひとりが目の前で起きている問題に正面から向き合い、原因を解明し、データを分析し、かつ支社や本社(土木設計部・技術研究所)、土木施工技術委員会(ダム委員会)の支援を得ながら問題を迅速、的確に解決していく。それこそが西松建設の現場力だと思います。

新 田

現場では地形・地質と設計の相違や自然の猛威による被害など、本当に多くの問題が発生します。しかし所長が言うように、どんな問題も皆で熱心に話し合いを重ね、問題を解決しながら進んでいきます。私はまだ経験が浅く、先輩や上司に教えてもらうことばかりですが、そういう場面は何度も見てきました。西松建設の誇る現場力を肌で感じる部分ですね。

TALK - 05この経験を活かし、
今後、経験したい現場とは?

新 田

将来は土木の営業職に興味があります。土木業界は女性の進出が遅く、当社にもキャリアモデルがないのが実情。結婚や子育てをしながらいかにこの世界で長く働き続けるかを考えた場合、今の現場経験を活かして貢献ができる、営業職という選択肢が思い浮かびました。現場や支社・本社で技術面の知識を学んだうえで、多くの人に西松建設の強みを伝え、新たな工事の獲得に関わる。そんな活躍のしかたもあると思っています。

角 屋

機電職は主にシールド・トンネル・ダムの現場を担当することが多いのですが、私は3つ全てを経験してきました。多種多様な機材を知り、豊富な知識を蓄え、その経験を活かし、今後はオールマイティに働いてみたいです。正直、これだけ大きな現場ができるなら、もうどこへ行っても通用する自信があります。せっかくならさらに大きな現場で、また初めてのことに挑戦してみたいですね。

白 武

私はもともとダム建設は専門外だったのですが、経験してみると、堤体工事はもちろん、河川、トンネル、橋梁など多種多様な工種があり、土木工事の集大成的な面があって、実に多くの学びがあります。規模が大きい分、大変な面もありますが達成感も大きいので、これからも何らかの形でダム建設には携わっていきたいと思っています。前述の通り、近年ダム建設の件数は減っては来ていますが、西松建設には多くのダム建設現場を経験している先輩方がたくさんいらっしゃるので、そういう方に教えを請いながら、いつかは所長としてダム建設の現場を指揮してみたいですね。

中 井(所長)

白武さんの言うとおり、ダムは“土木工事の総合デパート”。様々な工種があり、技術者にとっては多彩な経験ができる理想的な現場だと思います。また、地域に開かれたダムとして、地域と一緒になって作り上げていくとういう考えを理解し、地域の活性化に協力できていることを目の当たりにすると、さらに面白くなってきます。その魅力を若い人たちに伝えていくことも私の使命と考えています。“良いもの”を作りたいという向上心や探究心を持っていれば、誰でもいいコンストラクターになれると思います。