Project 01

仙台の未来のために
「労務・資材・時間」
を克服する

仙台市 荒井西土地区画整理事業

背景

仙台市営地下鉄の新路線開通に伴い、新たな市街地の形成が進む荒井西エリア。
東日本大震災で被災された方の移転用地にもなっているため、復旧復興の一役を担うプロジェクトでもある。
だがそこには、労務・資材の不足と、短期決戦という壁が立ちはだかっていた。

仙台市の復旧復興の一役を担う、未来にむけた
土地区画整理事業。

仙台市荒井西というエリアは、平成27年12月の仙台市地下鉄東西線の開通に伴い、「六丁の目」駅の近接地として市街化が進んでいる地区です。仙台市の基本方針により、公共交通軸を中心とした機能集約型都市形成に資する地区の候補地として位置づけられており、良好な住宅地を造成して宅地の利用増進を図り、健全な市街地を形成することを目的としています。また、今回の区画整理事業地の一部は、東日本大震災によって被災された方々の防災集団移転用地にも指定され、仙台市の復旧復興の一役を担うこともプロジェクトの目的のひとつとなりました。住宅地としては最大区画数の移転地となっているため、仙台市、そして被災された方々からの期待も大きく、何としてでも短い工期で街開きを実現させなければと奔走してきました。西松建設だけの一工事ではなく、地域の未来をつくる一事業として、技術屋のプロ意識と誇りを持って街づくりを行っています。

早期の完成を実現するために、現場で自ら課題を発見。
答えは、「施工順序の工夫」にあった。

仙台市からの要望は、「2年で防災集団移転用地を完成させること」。それは実に、頭を悩ませる問題でした。ただでさえ震災の影響で労務も資材も不足している状況下。そこに、「地盤の弱さ」と「下水インフラの整備」という大きな課題が加わっていたのです。このあたりは粘性土等を中心とした軟弱層で、荒井西のエリアは特に表層部から軟弱な粘性土と砂質土、有機質土が厚く堆積しているため、地盤対策をまず第一に講じなければなりません。プレロード工法で圧密沈下を促進して原地盤を固め、さらに計画地盤の高さまでの盛土と、木造3階建て相当の荷重(載荷盛土)を見込んだ盛土を加え、残留沈下が目標値に達した段階で載荷盛土を撤去。本プロジェクトにおける最も重要なポイントこそ、この「盛土の順番」でした。

先行販売箇所である防災集団移転用地に選ばれた土地は、区域の中の上流にあたります。部分的に工事を進めてそこだけを先に完成させたとしても、下流の土地で下水インフラの整備が完成していなければ、上流から汚水排水を流すことができません。それは快適に生活できる宅地としての完成ではないということ。上流域の街開きの時には、流末まで下水インフラを造り終えていなければならないのです。

さらに、街開きのためには区域内の道路も全部造らなければならない…。「どこの、どの工事をするにも、盛土が関わってくる。一般的にはコストや効率の面から、土を動かす距離が短くなるよう盛土の順番を考えますが、このプロジェクトにおいてはそれでは上手くいかない。距離が遠くなったっていい、造るべきところからやるんだと。その分、土の管理も難しくなるし工程も煩雑になるけれど、すべての軸となるクリティカルな箇所の盛土を優先して行いました。

そうでなければ、2年という定められた短期間の中では絶対に街開きは実現できませんでしたね。」と、芝本所長は盛土の進行計画図を広げながら緻密な計算の背景を語ります。既存の道路や水路を活かしながら、プレロード盛土はクリティカルな幹線道路沿いを先行したことで、盛土工事と地下埋設工事を同時に進めることが可能に。全体を見据えた上での一番の近道は何か、その視点で優先順位をつけること。ただ工期を守るだけでなく、そこで始まる暮らしまで想像したからこそできた課題解決だったと感じています。

地域からの「要望」を聞くために。
近隣への配慮と対応が、安心安全な社会インフラづくりの第一歩。

今回の土地区画整理事業は、住宅地内の大規模造成です。三方を住宅地に囲まれ、小学校や幼稚園が隣接しています。「大型ダンプトラックの出入りは延べ700台。30秒に1回のペースで絶えず現場へやってくるということもあり、園児・児童・住民の交通安全や、騒音や振動に対するクレームが想定されました。だから、工事を始める前に周辺の住宅を一件一件個別訪問しましたね」と、地域の方への事前説明にも芝本所長の経験則が活きていました。「合同説明会をしたり、回覧をまわすだけでは不十分。『これからこういう工事をやりますよ』と、住民一人ひとりと顔を合わせることを大事にしています。『何か気になることがあればここに電話してください』と、事務所と私の携帯番号を渡す。そうすれば、人と人としての対話ができる。『もう少しこうしてほしいな』という要望として意見を寄せてもらえるようになる。これまでの経験から学んだことです。

心配事はいろいろありましたが、大きなクレームはひとつも発生していないですね」。地域の方の理解や協力を得ることは、一方的な説明だけでは難しいものです。顔を合わせ、意見を伝え受け止める関係性をしっかり築くこと。それが、喜んでいただける社会インフラづくりの第一歩となっています。

工事ではなく「事業全体」の完成を見据えて。

「本来なら3年近くかかるものでしたが、着工から25ヶ月で防災集団移転用地を仙台市に引き渡すことができました。早くから労務と資材を確保し、すぐに着工できたのが決め手でした」と芝本所長は語ります。地元の協力業者を一件一件訪ねて集結し、契約から約10日後には仮囲い、1ヶ月後には土を入れ始めたとのこと。「すべての設計や計画ができあがっていない状態からのスタートでした。でも、2年後には街開きをしなければならない。最初の1年で土を盛って、その間に現場を見ながらどうしていくべきかを考えました。時間は限られていますし、動かなければ何も進まない。ただ、この事業は業務代行方式なので、私たちは工事だけを考えていてもだめなんです。事業全体を無事に完成させることを第一に考えなければ上手くいかない。最終的な完成形は、工事の完成ではなく区画整理事業そのものだから」と。その視点こそが、本プロジェクトにおける「現場力」の源でした。「被災者の方に、早く仮設住宅から移ってもらうことができました。どの現場でもそうですが、工事が終わったからそれでよいということはなくて、そこに人が住みだしてはじめて良かったなと感じるものです」。自分たちの仕事が、人々の暮らしに役立てられているという実感。それは、街に人の息吹が流れ始めた時に生まれてくるものなのかもしれません。

「被災者の方に、早く仮設住宅から移ってもらうことができました。どの現場でもそうですが、工事が終わったからそれでよいということはなくて、そこに人が住みだしてはじめてよかったなと感じるものです」。自分たちの仕事が、人々の暮らしに役立てられているという実感。それは、街に人の息吹が流れ始めた時に生まれてくるものなのかもしれません。

仙台市荒井西土地区画整理事業組合 事務局長より

何かひとつでなく、先々を見据えた総合力。

防災集団移転で越して来られる方が住みよい街をつくろうという思いで、仙台市や住民の方の声を取り入れながら街づくりを行っています。仙台市から「27年3月までに、保留地をすべて宅地として出して欲しい」という要望に対しても、西松建設には一瀉千里のごとくきれいに仕上げていただきました。特にこの現場はプレロード工法を行っているので、相当な土量の管理が必要。その土をあちこちに転用させながら無駄を出さないようコントロールして、さらに通常よりも短い納期で宅地として完成させた点が非常に良かったと感じています。品質管理はもちろん、コスト管理も同時に徹底されているということですから。

また、区画整理事業においては地権者対策が最大の難点となりますが、起こりうる問題を先読みして、それをもとに地権者対策をされていました。区画整理というものは、人とのつきあいの中で話題を上手くまとめながら、相手のふところに飛び込んで信用してもらわなければ事業を進めることができません。土地をお預かりして、宅地という「商品」にしてお返しするわけですから、信頼を得続けながらそれに応える質のよい商品を造る技術と誠実な対応力が求められます。

これまでの経験を活かし、組織としての知恵を集結して、すべてを一つひとつ先読みしていたからこそ、西松建設にはそれができるのだと感じました。何か一つこれがよいということではなく、一つひとつの積み重ね。そういう総合力が本当に素晴らしかったと思います。仙台市からも、短納期での保留地受け渡しはとても喜んでいただいています。すでにこの地での生活を始められた方からは「ずいぶん住みやすい」との声を聞きました。区画整理事業が完成し商業街区ができれば、これからますますいい街になっていくのではないかと思っています。

仙台市荒井西土地区画整理事業組合 事務局長
阿部 孝志

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