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廃食用油から製造した次世代型バイオディーゼル燃料の建設機械への適合性を初めて実証

お知らせ2023年03月10日


 当社と佐賀市(佐賀市長:坂井英隆)は、佐賀市清掃工場に設置した「次世代型バイオディーゼル燃料製造プラント」で製造される、カーボンニュートラルな燃料である高品質バイオディーゼル燃料(HiBD)が、最新の建設機械で適合することを実証しました。


背景
 当社は、2019年6月に「2030年度CO2排出量ネットゼロ」という目標を掲げ活動を開始し、環境対策や地球温暖化対策のために使用済み天ぷら油等の廃食用油から精製したバイオ燃料BDF(FAME)※2を建設機械の燃料に活用することを進めていました。しかし、最新の建設機械に対する燃料適合性の懸念等から、同時にFAMEとは異なる「次世代型バイオディーゼル燃料」の実用化研究や普及について検討していました。
 佐賀市は、2010年に環境都市宣言、2020年には「ゼロカーボンシティさがし」を表明し、「地域循環共生圏」づくりを推進しています。限りある資源を有効活用しながら、資源を融通し合うネットワークを築くために市民・企業と共に取組み、市営バスなどへのFAMEの利用を進めていましたが、2004年式以降の車両には対応できず、使用できる車両が限られていました。
 こうした中、西松建設は佐賀市と公募型プロポーザル方式にて共同研究契約を2020年10月30日に締結し、HiBDの実用化研究を進めてきました。これまで、HiBDの製造安定性や品質などを確認し、今回、100%HiBDを建設機械へ使用する実証実験の実施に至りました。

1 高品質バイオディーゼル燃料(HiBD):廃食用油等の油脂に対して、触媒を用いた脱酸素反応(HiBDプロセス)を行うことにより得られる軽油と同等の炭化水素油。
2 BDF(FAME):使用済み天ぷら油等の廃食用油にメタノールとアルカリ性の薬品を加え、エステル化して製造される脂肪酸メチルエステル(FAME)で、ディーゼルエンジン用のバイオ燃料。


実証実験の概要

① 発電機による実証実験

 最新のコモンレール式ディーゼルエンジンを搭載した発電機(株式会社やまびこ製、型式:DGM600MK-P)を用いて、2021年度(約3カ月間)と2022年度(約4カ月)の計2回、実証実験を行いました(写真1)
 2回の実証実験において、発電機の始動性や運転安定性に異常は認められませんでした。また、FAMEでは未燃分等がエンジンオイルに混入しエンジンオイルが劣化することが知られていますが、HiBDでは、エンジンオイルの劣化指標4項目は管理基準値内で顕著な劣化は認められませんでした(図1)
 実証実験終了時、燃料供給系および各種フィルターの点検を行った結果、燃料ホースの膨潤等や各種フィルターの異常等は認められませんでした。
 2021年度と2022年度の燃料消費量は、それぞれ3.6L/h3.7L/hで、メーカーのカタログ値(3.7L/h)と同等でした。
 最新のエンジンを搭載する発電機にてエンジントラブル等がなく、HiBDの燃料適合性を実証できました。加えて、HiBD使用時の排出ガスに含まれるばいじん量は0.0053mg/m3で、軽油使用時の0.0059mg/m3よりも10%減となる環境性能も確認されました(写真2)


② 油圧ショベルによる実証実験

 当社のトンネル施工現場で、掘削ずりのかきあげ作業に使用している、0.7m3クラスの油圧ショベル(株式会社小松製作所製、型式:PC200-11)での実証実験を行いました(写真3)。油圧ショベルは最新のコモンレール式ディーゼルエンジンで、排出ガス後処理装置(DPF:ディーゼル微粒子捕集フィルター、尿素SCRシステム:窒素酸化物浄化システム)を装着したものとなります。
 4週間の掘削ずりのかきあげ作業において、油圧ショベルの始動性や運転安定性に異常は認められませんでした。最新の油圧ショベルではFAMEの場合、エンジンオイルへ混入することが知られていますが、HiBDではエンジンオイル量の増加は認められませんでした。
 DPFの再生は、HiBD使用時の場合も、軽油使用時の場合も約48時間毎に行われ、再生異常は認められませんでした。
 実験終了時、燃料供給系および各種フィルターの点検を行った結果、燃料ホースの膨潤等や各種フィルターの異常等は認められませんでした。
 今回の掘削ずりのかきあげ作業での燃料消費量はHiBD使用時15.2L/h、軽油使用時15.8L/hで大きな違いはありませんでした(メーカーのカタログ値:低負荷時16.4L/h)
 最新の油圧ショベルにて、エンジンおよび排出ガス後処理装置のトラブル等がなく、HiBDの燃料適合性を確認できました。


■ 今後の展開

 最新の建設機械(発電機と油圧ショベル)100HiBDの燃料適合性を実証できたことから、HiBDがその他の建設機械やバス、トラック等でもドロップインバイオ燃料3として使用できることが期待されます。今後は、HiBD製造に求められる廃食用油等の種類や品質の自主基準を定めるなど、実用化研究をさらに進めてまいります。
 当社はエコ・ファースト企業4として「2030年度のCO2排出量ネットゼロ」の達成を掲げており、今回の実証はカーボンニュートラル燃料の現場活用に向けた取組みの一環です。今後も、CO2排出量の削減に寄与する技術開発や技術シーズの速やかな現場導入を図り、「2030年度のCO2排出量ネットゼロ」の達成を図るとともに、脱炭素社会の実現に貢献してまいります。

3 ドロップインバイオ燃料:石油由来燃料と等価な機能を有し、エンジン等に改修を加えずに利用できるバイオマス原材料から製造した代替燃料。
4 環境大臣より業界における環境先進企業として2016330日に認定。



20230310_p1.png写真1 発電機による実証実験の状況





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図1 エンジンオイルの劣化指標4項目(動粘度、ペンタン不溶分、酸価、塩基価)の経時変化
(使用したエンジンオイルのグレードにより2021年度と2022年度の管理基準値が異なる)


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写真2 フィルターに捕集されたばいじん



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写真3 油圧ショベルでの掘削ずりのかきあげ作業の状況