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「中大規模木造建築物の実現」への取り組み強化

お知らせ2025年01月21日

- 11階建て事務所のモデルプランで日本建築センターの構造評定を取得-


 当社は、「中大規模木造建築物の実現」へ向けた取り組みとして、11階建て事務所のモデルプランで、一般財団法人日本建築センターの構造評定を2024年10月11日に取得しました。
 本評定は、株式会社市浦ハウジング&プランニングを代表とする「P&UA(※1)構法共同技術開発グループ」(※2)との共同研究開発により取得しました。評定を取得したモデルプランは、柱脚接合部及び柱梁接合部に「GIUA(※3)」による半剛接仕様の仕口を用いた二方向ラーメン架構の一部に「シアリング・コッター耐力壁」や「ローリング・コッター耐力壁」を併用したもので、梁に設けるスリーブ付き継手やラーメン架構の梁端仕口の一部に「炭素繊維によるせん断補強」を用いることで、高耐力・高剛性・高靭性を実現しています。

(※1)Panel & Unbonded Anchorの略称

(※2)技術開発者:(株)市浦ハウジング&プランニング、(株)織本構造設計、東急建設(株)、東レ建設(株)、戸田建設(株)、西松建設(株)、(株)長谷工コーポレーション、三井住友建設(株)
共同研究者:京都大学 五十田教授、近畿大学 松本教授、広島県立総合技術研究所林業技術センター
協力者:アルファ工業(株)、内田技建、(株)ウッワン、エイコー(株)、(株)キーテック、轡製缶(株)、(株)河本組、桜設計集団、(株)中東、藤寿産業(株)、藤田K林産技術士事務所、本間興業(株)、銘建工業(株)(以上、五十音順)

(※3)Glued in Unbonded Anchorの略称

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【構造評定を取得した11階建て事務所のイメージパース】


■開発の経緯
 現在、我が国ではSDGsやESG投資の拡大を背景に、中大規模木造建築への関心が高まっています。これまで、木造建築は耐震計算ルート1又はルート2(許容応力度設計)でほぼ全ての建物が設計されてきました。中大規模木造建築物においては、ルート3(保有水平耐力)による耐震計算手法は未だ発展途上であり、脆性破壊を防止する靱性の確保や荷重変形関係のスリップ抑制、接合部の高剛性・高耐力・高靱性の確保などが課題となっています。

 そこで、当技術開発グループでは、これらの課題を解決する新たな構法となるP&UA構法の開発に着手し1期開発において、一方向をGIUAを用いたラーメン架構、他方向を耐力壁架構とし、鉄筋コンクリ-トスラブを採用した「10階建て共同住宅」によるモデルプランの構造評定を2022年10月に取得しました。さらにこの度、2期開発にて自由度の高い空間の実現化を目指してラーメン架構を二方向に拡張させ、二方向ラーメン架構の一部に耐力壁を併用し、鉄筋コンクリ-トスラブを採用した「11階建て事務所」をルート3、Ds=0.3で設計したモデルプランにおいて、日本建築センターの構造評定を取得しました。

■モデルプランに用いた要素技術
 半剛接仕様のラーメン架構の仕口に用いる「GIUA」、「シアリング・コッター耐力壁」、「ローリング・コッター耐力壁」、梁に設けるスリーブ付き継手やラーメン架構の梁端仕口に用いる「炭素繊維によるせん断補強」の4つの要素技術を採用しています。(特許出願済:(株)市浦ハウジング&プラニング)

①「GIUA」
中大規模木造で一般的な鋼棒挿入接着接合(GIRGlued in Rod)において、鋼棒をあえて接着させないアンボンド部分を設けた接合構法です。このアンボンド部分により、従来のGIRで生じていた脆性的な木材割裂を抑制し、大変形時でも木材を損傷させずに鋼棒が伸び縮みすることでエネルギーを吸収する機構となっています。工場で柱・梁の木材端部にGIUAを施工し、現場ではこの柱・梁を鉄骨のパネルゾーン(柱梁のジョイント部分)に高力ボルトを用いて緊結するだけであり、施工の省力化が図れます。

「シアリング・コッター耐力壁」
LVLやCLT等の木質パネルを上下に並べ、パネル間に設けた切り込みにL型に折り曲げ加工した鋼材(コッター)を組み合せ差し込んで接続した耐力壁で、耐力壁の上下は鉄骨梁としており、この鉄骨梁と耐力壁は鉄骨プレートとボルトにより接続します。
地震時には、建物に生じる水平力によって上下の木質パネルが左右にスライドしようとするため、パネル間に差し込んだ鋼製コッターが水平逆方向に変形し、地震力を負担することにより地震エネルギーを吸収します。この構造により大変形時まで木質パネルを損傷させず、コッター部分が変形してエネルギー吸収する機構となっているため、一般の木質耐力壁に比較して優れた変形性能とエネルギー吸収性能を有しています。耐力壁に求められる必要なせん断耐力はコッターの数量によってコントロールすることができます。
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【構造評定を取得した架構の要素技術】

「ローリング・コッター耐力壁」
鉄骨の枠柱の間にLVLCLTなどの木質パネルを左右に並べ、鉄骨枠柱とパネル間及びパネル同士の間に設けた切り込みに、L型に折り曲げ加工した鋼材(コッター)を組み合せ差し込んで接続した耐力壁です。耐力壁の上下は鉄骨梁としており、この鉄骨梁と耐力壁は鉄骨プレートとボルトにより接続します。
地震時には、建物に生じる水平力によって左右に並べた木質パネルがそれぞれ回転するロッキング現象が生じるため、鉄骨枠柱とパネル間及びパネル同士に差し込まれた鋼製コッターが上下逆方向に変形し、地震力を負担することにより地震エネルギーを吸収します。
この構造により、大変形時でも木質パネルを損傷させず、コッター部分が変形してエネルギー吸収する機構となっているため、一般的な木質耐力壁に比べて優れた変形性能とエネルギー吸収性能を有しています。耐力壁に求められる必要なせん断耐力はコッターの数量によってコントロールすることができます。

「炭素繊維による補強」
ラーメン架構の木梁端部の仕口や梁のスリーブ付き継手に炭素繊維板を貼付し、炭素繊維シートを巻き付ける補強を施すことで、木材の曲げ補強及びせん断割裂防止による急激な耐力低下の抑制を図ります。
梁のスリーブ付き継ぎ手補強においては、RC<造のスリーブ開口基準(梁せいの1/3まで)を上回る、梁せいの45%までのスリーブ開口を設けられることを構造実験で確認しており、RC造を超えてS造と遜色ないスリーブ開口の設置が実現可能です。
なお、炭素繊維補強については、耐火性能試験や実物大クリープ試験を実施しており、長期的な安全性も確認済みです。

250121_img03.png【構造評定を取得した架構のイメージ図】


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【構造評定を取得した要素技術のイメージ図】

250121_img05.png【実大実験の様子(左:二方向ラーメン柱、右:木梁端部仕口の炭素繊維補強)】

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【実大実験の様子(左:スリーブ付き継手梁のクリープ試験、右:ローリング・コッター耐力壁)】


■今後の展開
 P&UA構法については、一方向をラーメン架構、他方向を耐力壁架構とした5階建て寄宿舎の実物件が完成間近である他、複数の実物件での採用が計画されており、今後は適用物件の拡大を図るために以下の開発等を行う予定です。

①構造的な合理化に関する開発
・通し柱方式によるラーメン架構
RC造やS造との混構造
TCC(Timber Concrete Composite)の活用

②BCP対策としての制振構法の適用
CLT(Cross Laminated Timber)を活用した制振壁構法の適用

③実物件における効果測定
・加速度センサーによる建物応答計測及び固有周期、減衰特性の確認
・地表面加速度の建物への伝搬特性計測
RC床荷重による木材クリープひずみ量の計測
・木、鉄、コンクリートの異種材料界面の温湿度変化、木の吸放湿性の検証・確認