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LPWAを活用した省エネルギー遠隔監視環境モニタリング技術を開発 -水域の環境保全をIoT化へ、DOバイオセンサーでモニタリング実証確認-

お知らせ2022年03月08日

当社は、和歌山大学(災害科学・レジリエンス共創センター秋山演亮教授)と群馬大学(理工学府環境創生部門渡邉智秀教授・窪田恵一助教)との共同研究により、LPWA※1無線装置と一体化したMFC※2式のDOバイオセンサー※3(以下LPWA-DOバイオセンサー)を開発し、実証実験にて遠隔地で計測データを受信できることを確認しました。

写真1 LPWA-DOバイオセンサー設置状況

当社では、かねてより貧酸素化しやすいダムや湖沼等の連続計測値観測のために、MFC式DOバイオセンサーを開発・実証実験※4をしてきましたが、LPWAと一体化することにより、連続計測値を遠隔監視することが可能になり、閉鎖性水域での計測・メンテナンス作業の効率化及び省人化によるコストダウンが見込まれます。

※1 Low Power Wide Area(LPWA):920MHz帯域の周波数を使った免許不要の省電力・広域無線通信システム)
※2 MFC:微生物燃料電池、嫌気性発電細菌が有機物分(ヘドロ等)の分解(代謝)を通じて発電させる仕組み
※3 DOバイオセンサー:溶存酸素計測バイオセンサー
※4 これまでの開発の経緯:

・堆積物微生物燃料電池(SMFC)式バイオセンサーを用いた溶存酸素(DO)濃度連続計測技術を確立 -微生物で底質(ヘドロ)を分解して発電し、その電力で底層溶存酸素(DO)を連続計測-
・ヘドロを分解して発電する微生物燃料電池を応用した 省エネルギー型溶存酸素計測バイオセンサーの実証実験を実施


■開発の背景
閉鎖性水域の一部では極端に酸素が少なくなる貧酸素化により、水生生物の生育や水利用等に障害が生じます。そこで貧酸素化しやすい水底付近(底層)の水域でも水生生物が生存できる場を保全・再生するために、2016年3月に環境省による「水質汚濁に係る環境基準についての一部を改正する件の施行」を受け、底層DOの水域類型及び基準値が新たに設定されました。

しかし常時その場でデータを監視することは現実的でないため、西松建設では、群馬大学 理工学府環境創生部門渡邉教授・窪田助教との共同研究で、長期間に亘ってメンテナンスフリーかつ安定した連続計測ができる装置DOバイオセンサーを開発し、実証実験を行ってきましたが、計測データを定期的に現地で回収しなければならない等、遠隔地のデータが取得しづらいなどの課題がありました。

上記のような点を改善すべく、低消費電力、広域カバーエリア、低コスト(通信コスト等)を可能とし、免許不要のLPWA無線技術とMFC式DOバイオセンサーと一体化させたLPWA-DOバイオセンサーを開発・実証実験を行ない、計測データを遠隔地でダイレクトに受信できることを確認しました。

本技術によって、例えば外部電源の確保が難しく、かつ携帯キャリア等の電波が届きにくいような場所においても、貧酸素化しやすい湖沼等の連続計測値を遠隔監視することが容易にできるようになり、計測・メンテナンス作業の効率化及び省人化によるコストダウンが見込まれます。

■実証実験の概要
本技術は和歌山大学が防災/減災への活用のために開発し、LPWAと河川設置水位計を連携させた「住民設置型簡易水位計」のIoT遠隔監視技術と、群馬大学と共同で開発した自立電源型のMFC式DOバイオセンサーの技術を一体化させたものであり、閉鎖性水域における底層溶存酸素(DO)を連続計測可能な省エネルギー型の遠隔監視環境モニタリング技術です。

今回、群馬大学桐生キャンパスの近傍にある灌漑用ため池(沼)内に、2021年7月〜10月の3か月間、実証試験用に試作したLPWA-DOバイオセンサーを設置しました(写真1)。なお、LPWA無線装置(写真2)にはLoRaWAN方式を採用しました。

DOバイオセンサーが検出した水面及び底層カソードの電圧値(DO濃度と相関関係)及び水温、気温、気圧の各計測データは、LPWAを通して群馬大学桐生キャンパス内に設置した受信機(ゲートウェイ:GW)に直接送信され、学内のWi-Fiルータを経由してインターネットに接続されたデータサーバーに保存されます。

保存されたデータは専用アプリケーションを使用することで、PCやスマートフォン上に表示、またはCSVファイルとしてダウンロードすることが可能です(図1)。

写真2 LPWA無線装置(LoRa WAN方式)
(カソード電圧、水温、気温、気圧の計測センサー内蔵)

図1 今回使用したLoRaWAN用データ集約・表示システム

今回、2021年7月から10月の3か月間に亘って運用した、LPWA-DOバイオセンサーの運用実績の一部を以下に示します(図2)。時期によっては桐生市内の電界環境が様々な要因で変化するために計測データの欠損が発生することがあったものの、概ね良好な受信環境を維持できたことから、本技術の確立に目途がつきました。

図2 LPWAが送信したDOバイオセンサーのカソード電圧データの受信及び表示状況(PC画面上)

■今後の展開
今回の実証で採用したLPWAの方式の一つであるLoRaWAN方式に関しては、和歌山大学において宇宙衛星を利用した安価で省電力可能な環境観測システムの開発・実証を進めており、本システムとLoRaWAN衛星通信を利用することで、通信距離や地上受信局(GW・中継基地局等)の有無を気にすることなく、全国どこからでも遠隔監視環境モニタリングが可能になります。

今まで、データ取得が困難であった場所や、湖沼等の水域監視も容易になることが期待され、今後はMFCの発電性能を高めたLPWA-DOバイオセンサーシステム全体の自立電源化を進め、規定の数値になったらPCやスマートフォンにアラートを送信するなどアプリケーションの改良を行なっていきます。

また、MFCは底質環境を浄化しながら同時に発電もできる創・省エネルギー型の先進的な環境技術であることから、今後もSDGsに寄与する応用技術の研究開発を推進し、水質環境の適正化、生物多様性保全、脱炭素社会の実現に貢献してまいります。