Project 05

渋谷センター街に
「唯一無二」を実現する

(仮称)ヒューリック渋谷井の頭通りビル新築工事

背景

1日約5万人もの人が集まる、日本有数の繁華街「渋谷・宇田川町」。
渋谷の街をさらに魅力的にする新たなランドマークを目指して、数々の難問と「言葉にならない緊張感」に奮闘する日々。
想定外の出来事をも乗り越え成し遂げた一大プロジェクト、その背景に迫る。

工事概要
工事名称

(仮称)ヒューリック渋谷井の頭通りビル新築工事

所在地

東京都渋谷区宇田川町31-1(住居表示)

発注者

ヒューリック株式会社

設計者

株式会社櫻井潔建築設計事務所・ETHNOS

建築用途

物販販売業を営む店舗・飲食店
(地下2階:誰でもトイレ、駐輪場、廃棄物保管庫、粗大ゴミ置場
1階:エレベーターホール(それ以外はテナント専有区画))

建築概要

敷地面積282.45㎡
建築面積231.42㎡
延床面積2,121.19㎡
最高高さ38.637m
構造S+RC造(地下1階:SRC造地下2階:RC造)

工期

平成27年5月1日~平成29年5月10日

渋谷センター街に、新たなランドマークを。
「今までにない全く新しい」こだわり抜かれた意匠を形に。

「センター街」が貫き、多くのファッションビルが集まる日本有数の繁華街「渋谷・宇田川町」。
1日に約5万人が行き交い、夜間も人や車が途絶えることのないこの街に、今また新たな注目施設が誕生しようとしています。
「ダイバーシティ感を象徴した今までにない全く新しい外観デザイン」とも評されるまるでジェンガのようなユニークな外観に、誰もが目を奪われる圧倒的な存在感。「若者の街・渋谷にふさわしいランドマークを」というヒューリック株式会社様が求める姿を見事に実現したそのビルの名は、「ヒューリック アンニュー シブヤ(HULIC & New SHIBUYA)」。地上10階・地下2階からなり、新業態や渋谷初のテナントを集積する、まさにこの街への期待が詰め込まれた商業施設です。
活気に満ち溢れた施工現場にも、ここに至るまでにいくつもの苦難が立ちはだかっていました。

地下工事は、「難題」と「想定外」から始まった。

様々な建物が所狭しと並び立つ本現場では、狭隘な敷地をはじめ、道路規制、近隣商業施設との綿密な調整などこの地ならではの様々な課題がありました。中でも特に、「地下工事が苦労の連続でした」と現場を統括してきた梶谷所長は言います。地下水位が高く、既存地下躯体が残る狭小な敷地であったため、山留壁の施工も一筋縄ではいきません。
一部既存地下躯体を利用したり、大型重機1台で限られたスペースでも施工ができるソイルメント柱列壁モンロー工法を採用するなどし、それでも施工できない箇所には、親杭横矢板に薬液注入工法を併用することで、山留壁の止水性を確保しました。

しかしそこに、想定外の事態が発生。工事を進めていくと、地下既存躯体が事前情報と異なり、新築躯体に干渉することが発覚したのです。既存躯体の耐圧盤の上に新設する予定でしたが、事前に得ていた情報よりも耐圧盤が高い位置にあったため、このままでは階高が計画通りに確保できません。
急遽、「地下1階案」や「地下2階で階高を縮める案」について施主・設計・施工者間で協議。施主の最大の要望である「貸し室面積の確保」を最優先に考え、「地下2階で階高を縮める案」を採用することにしました。
「既存躯体の一部を山留めに使用することや、新築地下躯体の形状変更など、地下工事には本当に苦労しました。それでも、設計事務所様をはじめ関係者全員で知恵を絞り、一つひとつ迅速かつ細やかに調整を重ね、工期への影響を最小限に抑えることができました。狭い現場で、なおかつ周辺環境にも配慮した搬入出を実施するのは容易なことではありません。思うように作業が進まないことも多々あり、神経をすり減らしましたが、現場全体で考え、協議し、本社建築技術部をはじめ様々な方面にも随時支援を仰げたことが、こうした難関を超えるための大きな力となりました」と梶谷所長は語ります。
難工事であるがゆえ、一つの課題を解決するにも複合的な目線での検討が必要です。柔軟な現場対応力と、チーム西松としての経験値の集積、そして三者での関係構築。どれが欠けても成し得なかったプロジェクトだと言えるでしょう。

「基準階」が無い建物。
現場は「何とも言えない緊張感」に包まれていた―。

「同じ形、姿のフロアが一つもない」。
道行く人々を魅了するこの独特の外観デザインには、「渋谷・宇田川町におけるメッセージ発信拠点」となるべく施主・設計者の大きな願いが込められています。そして同時に、これは「空間を最大限に有効活用する」ための答えでもありました。
当然、地上の施工も、難題の連続でした。当地の状況(狭盆地であることや、周辺の道路事情など)により、乗り入れるクレーン車(70t)で吊り上げられる鉄骨は長さ9.5mまで。加えて、積み木をランダムに重ねたような構造であるため、各フロアには「跳ね出しの床」がある。これもまた、頭を悩ませたあの地下解体工事と肩を並べる、施工の重要ポイントとなりました。周辺環境を鑑みて、相対的に車や人通りが減少する夜間に鉄骨を搬入し、クレーン車で吊り上げることに。夜間は鉄骨建て方作業に徹し、日中に鉄骨の継手、ジョイントの溶接、本締めを行いました。夜間とはいえ、街中の工事。狭いエリアで施工しなければならず、安全には最大限の配慮を行わなければ、所定の建て方作業を完了させることができなかったため、現場では何とも言えない緊張感に包まれたと言います。
「狭隘な敷地に10階建ての建物を建設するためにはそれなりの重量のある鉄骨を使用することになり、また、安全面・騒音面の問題から夜間に一気に建てる必要がありました。敷地上、一方向(夢二通り側)からしか建てられず、奥の鉄骨を建てるのに手前の梁鉄骨が邪魔するので一時外す必要があったのですが、その時に倒壊しはしないかと言葉にはできない緊張感との戦いでした。当然、計算上は成り立っているのですが、大きな地震でも来たらと思うと…。夜間作業が気になって、眠れない日々もありました」という梶谷所長。現場の緊張感がどれほど計り知れないものであったのか、この言葉がすべてを物語っています。

課題を乗り越えた先に、また新たな現場力が生まれる。

意匠へのこだわり、空間活用の追求こそが、「ヒューリック アンニュー シブヤ(HULIC & New SHIBUYA)」を唯一無二の存在にする。その想いに応えるためには、数々の現場に携わってきた施工のプロたちでさえも経験したことのない高い壁に挑まなければなりませんでした。
「パースを見て、一体、どんな建て方をするのか、何が課題なのか、本当に想像がつかなかった着任前が、今では懐かしいですね。」
完成間近のビルを見つめそう語る梶谷所長の笑顔は、達成感という言葉では足りない、誇らしさとでも言うべき力強さがにじみ出ていました。
「狭小地での建築やタワーマンションの施工など、いくつもの現場を経験してきました。でも、そんな過去の経験とはまた違った感覚を、本プロジェクトは抱かせてくれました。私だけでなく、日々奮闘した職員すべてにとって、「新鮮」なことの繰り返しでした。数々のチャレンジを経て、それぞれが自分の成長を実感しているはずです。」

この工事に携わった職員にとって、この「ユニーク」な建物自体が、大小様々な課題に直面し、克服していった「努力の結晶」。本プロジェクトで得たものは、また新たな課題に出会う時にはそこになくてはならない現場力として発揮されていくことでしょう。

発注者/ヒューリック株式会社開発推進部 参事役 真野 和洋氏より

「今回の経験を糧として、
次回はより高いレベルで協働できると嬉しく思います」

厳しい立地条件における、難易度の高い施工計画となりましたが、お陰様で非常に印象的なビルとして仕上げて頂いたと思います。当ビルは、当社にとって、従来のオフィスビル領域に加えたあらたなビジネスとして、初めての自社開発による都市型商業施設となります。そのため、当社としても初めて経験することが多く、様々な課題に直面しましたが、その都度、3者での対話を重ねて進めてきました。
周辺との関係構築は、当社のみではなし得なかったと思います。事前準備、近隣調整も含め、施工を取り巻く様々なシーンで「現場力」を発揮していただきました。次の機会には、今回経験したことを糧とし、より高いレベルで、協働できると嬉しく思います。

設計者/株式会社櫻井潔建築設計事務所・ETHNOS取締役 櫻井 建人氏より

「困難な箇所の施工法を、
皆さんと検討したことが印象に残っています」

ヒューリック株式会社様のご要望(容積率100%の達成)には、道路斜線制限等をクリアすることが必須だったため、私たちは「天空率」を用いて設計することにしました。当ビルの意匠はこうした経緯によるものなのですが、もちろん渋谷・宇田川町の情報発信拠点としての姿も十分に考え、私たちの思いを詰め込みました。
「箱」としての外観だけでなく、跳ね出しスラブ、軒天、パラペットなど、ディテールにも相当こだわりましたので、施工中も頻繁に現場へ通いました。「パラペットと軒天の交差(20mmのクリアランス)が一番困難で、その施工法を皆さんと検討したことが印象に残っています。
大森ビルも含めて、三者が高いレベルで協働すると、こんなにも素晴らしい仕事ができるのだと改めて感じました。

  • 天空率:建築設計における、天空の占める立体角投射率。道路斜線や北側斜線と異なり、より現実的な、建物と空の比率で判断する。空間を有効に使え、デザインの自由度を広げる。建築基準法改正(2002年)において、斜線制限の緩和条件として盛り込まれた。

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